見る間にベストセラー Amazon図鑑部門1位 総合23位
ガリレオ工房監修『小学館の図鑑NEO [新版]科学の実験』が2020年7月14日から書店に並び、「アマゾンで総合300位」といきなり上位に。この本は2009年の最初の版から11年で、定価2000円と決して安いとはいえない本なのに20万部出ていたので、新版になってもある程度売れると期待していました。2009年発売時には7万部からスタートで、今回は5万部スタートとのこと。通常新しい版の方が少し売れ行きは落ちるのかなと思っていたのですが、19日には総合46位、27日には23位に、Amazonの図鑑部門では2週間1位。楽天や紀伊國屋のWEBなどでも非常に高い位置で、ベストセラーをキープ。書店でも絶好調とのことで、わずか2週間後の7月末には(多くの本が初版3~5千部なのに)6万部の増刷が決まりました。
『[新版]科学の実験』に大型宣伝の小学館 テレビCM マクドナルドのハッピーセット他
小学館としてもこの本の宣伝に様々な工夫を行い、おかげでベストセラーになったのだと感じます。7月17日から、マクドナルドの「本のハッピーセット」に、高いクオリティの『[新版] 科学の実験』の『ミニ図鑑』とブーメランの実験キットがついています。またテレビCM(https://www.youtube.com/watch?v=x6MkMWZ5Sh4)も開始。さらに7月24日にはWEB参加の小学館文化講演会も、短期間の募集にもかかわらず900組が応募。選ばれた200組の参加でガリレオ工房から4人が6つの『[新版]科学の実験』の中の実験を紹介。
チャレンジして、新型コロナウィルス感染の急ブレーキを乗り越えて得られたものは
得られたのは、この本がベストセラーになったことですが、どうチャレンジしたかを紹介します。それは3月の新型コロナ感染の拡大で、編集会議が開けなくなったときに、ガリレオ工房からの提案でZoomによるWEB会議に切り替え、非常に丁寧な編集作業が行われるようになったことです。実は図鑑NEOではこの時3冊が同じ7月仕上がりを目指して動いていたとのことですが、『[新版]科学の実験』のみが編集作業を継続し、この1冊だけ、7月発売ができました。新型コロナ感染防止対策で、子供たちの家庭滞在時間が増え、親が安心でき、子が安全に好奇心を伸ばせる良質な出版物を求めたい需要があったまさにその時期に発売にこぎ着けられたため、編集部の予想をも超える売れ行きとなったのだと思います。
2020年3月、新型コロナのため対面による編集会議が開けなくなった際の編集長とのやりとり
(編集長:24日 17:53) 緊急のご報告 滝川先生 白數先生・・・図鑑NEO『[新版]科学の実験』におきましては、今後複数回の会議が予定されていますが、当面の間自粛せざるを得ない状況です。明後日13:00~の会議より中止とさせていただきますが、今後の進行につきましては改めてご相談させていただければ幸い・・・
(滝川:24日 18:19)・・・当座は集まらないでWEBを利用するのが無難かなと思います。
(白數:24日 18:40)・・・さしあたり、明後日のこと、WEBをご検討ください。
(編集長:24日 19:01) 早々にご返信ありがとうございました。先ほど編集部でもZoomの会議を検討しましたが、経験上多人数での長時間の会議には、なかなか難しいのではないかという結論に至った次第です。そこで、以下に紙ベースでの進行を提案いたします。・・・
(滝川:25日 0:43)・・・昨日は、僕の実験を見てもらう会議でした。参加したのは8人。大阪、名古屋の方が初めてのZoom会議で、今まで僕のマンションに集まっていたのに比べ、実験を見るのでもあまり変わらない会議だと言われました。実験のない会議はZoomで大丈夫だと思います。一度とにかくやってみませんか。・・・早くアナウンスしないと、予定を入れてしまうので、決断して連絡をして頂ければと思います。今予定している会議を全部Zoomにして、本を作り上げることに専念できればと思います。早く仕上げないと今年売るのにかなり困る状況なので、試しに26日参加できる方だけで開くというのはどうでしょうか。
(編集長:25日 4:44)おはようございます。ご提案ありがとうございました。それでは、明日一度Zoom会議を試してみるという事に致します。時間もございませんので、さっそく皆様にお知らせいたします。
(滝川:25日 11:14)Zoomの会議については、たぶん10分程度で慣れると思います。明日の最初はZoomに慣れるところから入りましょう。
新型コロナ感染拡大防止の時期だから挑戦できた会議
以上が編集長とのやりとりです。小学館の「紙ベースで会議を」という結論を、ガリレオ工房からの提案で試しに行ってみることに。あっという間にZoomに慣れ、その後「怒濤の」会議が始まりました。
小学館に集まっての編集会議は3月の2回でしたが、3月26日を皮切りにZoom会議が5月22日のギリギリまで11回。1回の参加者はガリレオ工房が12人、編集部をあわせて約20人が全部で13回100時間以上の編集会議。僕が今迄かかわった百数十冊の本の中で一番丁寧な会議になりました。
Zoom での顔を合わせての議論は、直接会うのとほとんど変わりなく、紙ベースでのチェックでは行えない、誰かの問題提起でみんなが考え、その場で解決案が出ることが次々と続きました。前の版の流用部分も全てのページに意見が出て、結局よりわかりやすい、実験が確実にできる大幅改訂の新版になりました。大変ではあったのですが、私たちも編集前にくらべて、内容が本当によくなったなと感じる一連の会議でした。編集サイドでも、いい本になったと実感されたのが、小学館内で強気の宣伝体制を組む原動力になったのではと想像します。
時代の動きのちょっと先
ガリレオ工房は毎月の例会で10以上の発表があり、この10年で500以上の新実験を開発し、その中のいいものを『[新版]科学の実験』で紹介しました。いつも新しいものに挑戦するというのは、科学の基本でもあり、ガリレオ工房の日常です。僕がZoomを使い始めたのは、まだ知名度がない2018年3月。ガリレオ工房の例会や、理事会では必要に応じて使ってきました。例会会場からの音が聞こえにくい、実験を紹介しているときの実験と説明のPPTが見えにくいなどの問題を少しずつ解決してきました。2020年3月の例会は新型コロナ感染防止のため、基本は家庭で、運営側が会場に集まり開催。4月の例会は会場なしで全員がZoom参加となり、ガリレオ工房はZoomが初めての人のサポートや、質問の受付と答え方、妨害者が入ってこない入室者管理などを工夫。その最中に本の編集が入りました。私たちとしては躊躇なく動けたのですが、新しい技術を経験していない方にはハードルが高く、一歩先を学びながら動くことが大切だと痛感しました。世界中が新型コロナ対応に動き始める中の半歩先がベストセラーにつながったわけです。
ガリレオ工房は3月から企画し、5月にZoomによるオンライン双方向実験教室(親子約20組)を実施。7月には親子約30組がグループに分かれて実験。その中でオンラインイベントでの困難なところを探りました。さらに8月30日の「理科読シンポジウム」では、Zoomのウェビナーという機能を使って数百人でも対応できる工夫を重ねているところです。
時代の変化を見ながら、小さな失敗を活かして前に進むことが、私たちの変わらぬ課題でもあり、新型コロナ感染が長期化し、社会が急激に変化する時代には、自分で判断して動くことには、より重みが増してきています。時代の変化の中で新しいことへの挑戦を躊躇している子どもたちにも、今回の私たちの経験が励ましになることを期待しています。